10月1日。
今日って、ウソついても良い日のような気がするのは、ワタクシだけですか?
さて、この話はウソじゃなくて本当の話。
ココに越してきて間もない2週間ほど前、何の前触れも無く彼は、やって来た。 何の迷いも無く、私のドアの呼び鈴を押し、突然彼は、現れた。
もう、季節は秋。 なのに彼は、冷たい風の中、季節など、どうでも良いのだと言いたげな、明るい色のスーツを着、その細い首からは、奇妙なネームプレートのようなものを下げていた。 その、奇妙なネームプレートのようなものは、細く開いたドアの隙間で、誇らしげに見えた。
彼は、どうみても私より一回りは若く、スーツを着ていなければ学生料金で映画を見れるだろう。 さほど高くない身長と、贅肉とは無縁そうな肩の上に、小動物のようにクリクリとした瞳と、小さな頭部。
私は一瞬にして、警戒心を失っていた。
それが私のツ・イ・ラ・クの始まりだったのだ・・・。
思い出せる彼の残した言葉は、今の私に現実を突きつける。
“すみません・・・ご主人に相談も無しじゃ無理ですか?”
“初めてのときは、現金だけなんですよ・・・”
そして、暗い部屋の片隅で、精一杯自分を抑えて膝を抱え、耳を塞ぐ私をせき立てる様に鳴り響く呼び鈴。 出る事の無いインターフォーンに向かい微笑みかけ続ける彼の姿が、今になっても時折私の胸を締め付ける。
彼は幻だったのだろうか?
いや、幻であって欲しい。
最初から彼など、現れなかったなら、どれほど救われるだろう。 あの時、ドアを開かなければ、今の私は毎月、好きな映画が一本見られるくらいの幸せは得ていただろう。
彼は、また呼び鈴を押すのだろうか? 今週一杯、下手な居留守を使い続けた私を許すのだろうか? インターフォーンに映る彼の笑顔をもう一度見てしまった私は、その話術に抗う術を知らない。
彼を憎むべきか。 彼のレゾンデートルを恨むべきか。
こんなにも私を苦しめ、悩ませる彼は、NHKの受信料徴収人。
一軒徴収で500円。
|
|